今年は論文を書くよ

早いものでもう2019年。今の大学に赴任してきたのが2012年の4月。その年の前期の授業準備で初めてラバーハンドイリュージョンとの邂逅を果たし、からだの錯覚をテーマとする研究室展示「からだは戦場だよ」を初めて開催したのが2014年の1月。それから5年間、セルフタッチ、ラバーハンドポインタ、伸びる指、影の手、布の手、紙の手、指の屈折、伸びる腕、動くラマチャンドランミラーボックス、幽体離脱、重力反転、頭部着脱感覚、、、小鷹研の歩みは戦場とともにあった。その5年目の戦場Δが、先日12月22・23日に、これ以上望むべくもない盛況で幕を閉じ、そして既にいたるところで公言しているように、僕はこれをもって戦場(という名のプロジェクト)を閉じようと思っている。これ以上望むべくもない幕引き。

2019年元旦・岡崎龍城神社にて

僕は、(とりわけここ数年の)戦場において一切の妥協をしなかった。戦場において出品された装置は、どれも僕自身の主観に照らして一定の基準を満たしている。その基準とは、装置がつくりだす体験において、僕自身が新しい風景の中に否応無く取り込まれていくこと、しかもその中で「ぐぐぐとくる」瞬間に立ち会うこと、、この二点に尽きる。そして、そのような新種の体験は、戦場に出品した学生の数だけ、一年おきに更新されていった。この僕自身の設定した基準なるものは、決して独りよがりのものではない。実際、岐阜の小さなギャラリーで発表されたそれらの小さなアイデアが、その後、国内外の名誉ある舞台への展示(Siggraph Asia 2017, 2018、VR Creative Award 2018)や受賞(Unity Award in EC 2017)へと回収されていったことは、研究室の大きな誇りである。

ただし、そのようなかたちで(幸運にも)回収されていったものは、あくまでも僕たちが生み出してきたものの部分集合に過ぎない。戦場に出品した四年生のほとんどは、学部を卒業すると、卒業研究に取り組むよりも前に既に内定していた企業へと進む。彼らのすすめていたプロジェクトのほとんどは、誰にも引き継がれることがない。そうして、今や研究室は、回収しきれないほどに、多くの研究のタネを抱えている。だから、僕は、ここらでこの供給過剰?なサイクルから一旦抜け出て、いちアカデミシャンとして、実験心理学の言語で、僕たちがこれまで扱ってきたものの新しい風景の内実をじっくりと語り直したいと思う。来年は、幸い?四年生の数が少ないうえに、新しい大学院生が1人(+α)入ってくる。いつになく研究モードに転じて、心理実験の時間を多くとって学術論文を量産したい。

そう。
年始の抱負は「論文を書く」。
これに尽きる。

年始なので2018年の主な研究室の出来事を少しばかり振り返ってみる。

01月 「からだは戦場だよ2018 人間は考えヌ頭部である」開催
03月 古谷利裕氏の論考『「幽体離脱の芸術論」への助走』で小鷹研への言及!!
06月 人工知能学会のOSで招待講演!!
06月 VRトークイベント(没入の宴)への参加
06月 「動くラマチャンドランミラーボックス」の論文発表、名古屋テレビ、中日新聞
07月 美術手帖WEBにReview(小林椋『ローのためのパス』)を寄稿!!
08月 「Elastic Arm Illusion」がVR Creative Award 2018でファイナリストとして展示
08月 認知科学会のOSで三件の発表(重力反転、動くラマミラ、蟹の錯覚)
09月 メディアアート展示『拡張する知覚』に二点の新作を出品(10年ぶりの制作)
11月 朝日新聞の先端人で記事に!!
12月 Siggraph Asia 2018で「Self-umbrelling」を出展
12月 「からだは戦場だよ2018Δ ボディジェクト思考法」開催

以下は小鷹研の活動に言及のある報道関係の主なリンク

[中日新聞ニュース]|鏡の左手、脳では右手?動かさなくても「動いた」錯覚 名市大が実験
[名古屋テレビ]|固定された手、動かしたように錯覚 名市大大学院が鏡を使った研究結果を発表
[週間アスキー]|選りすぐりのVRコンテンツが多数集結、「VRクリエイティブアワード2018」レポート
[朝日新聞 DIGITAL]|体の錯覚、科学で作る(先端人)
[VRon WEBMEDIA]|SIGGRAPH Asia 2018 TOKYOレポート7(「VR / AR」その3)
[Mogura VR]|嗅覚や身体感覚に訴える展示多数、アイディア満載のSIGGRAPH Asia 2018 体験ブースレポ
[美術手帖WEB]|からだは戦場だよ2018Δ(デルタ)(やながせ倉庫・ビッカフェギャラリー|岐阜)|EXHIBITIONS
[朝日新聞夕刊]|ぞわぞわする錯覚体験 岐阜装置8点を展示

いやぁ、どう考えても働きすぎだろ。
来年は引きこもって研究だ!!